泌尿器がん: 前立腺がん

前立腺がんとは

前立腺って何?

イ.膀胱の出口にあって、この中を尿道が貫いています。

ロ.男性だけの臓器で、男性ホルモンに支配されています。


この2つの特徴が後に、熟年男性を悩ますことになるのです。性ホルモンのバランスが崩れてきた熟年男性は、前立腺が腫れ、尿道が圧迫されて尿が近くなったり、尿が出にくくなります。これが前立腺肥大症です。


そんなところに癌ができるの?

早期の癌には症状はありません。前立腺肥大症とは全く異なる病気ですが、両者が合併することがあり、症状だけによる自己判断は危険です。発生と増殖に男性ホルモンが深く関わっており、治療にも応用されています。高齢者に多く進行が遅いのも特徴です。


前立腺癌が増えています

天皇陛下の御病気が前立腺癌であり、手術をお受けになって経過も順調との報道が流れて以来、泌尿器科外来は前立腺癌ではないかと心配して受診される患者さんであふれるようになりました。以前、新潟県出身の国民的大歌手、三波春男さんが前立腺癌のため亡くなったと報道されました。映画監督の深作欣二さん、前立腺癌による疼痛に耐えながらの映画制作中のところ死亡、との記事もありました。 この病気で亡くなった方は1998年には人口10万人当たり11人でしたが、これは20年前に比べて5倍以上であり、将来も増加し続けると予想されています。

この癌は地域、人種により患者数が異なり、欧米で患者が多く、人種別にみると黒人、白人、アジア人の順となります。米国では男性の癌のうち患者数は第1位で死亡は肺癌に次ぐ第2位だそうです。このままでは日本でも男性の癌のトップクラスにランクされることにもなりかねないのです。


前立腺癌は確かに増えています

県立がんセンター新潟病院では、新規の1年間の前立腺癌の患者さんは1991年には23名、2001年は92名、2011年は240名と確実に増加しています。しかも20年前には転移のあるような進行した状態で受診される方が多かったのですが、最近は治癒の可能な早期癌の患者さんが増えています。働き盛りの50才代の方も増えています。患者数の増加は病気が増えたことは勿論ですが、PSAという腫瘍マーカ―により早期発見が可能になったことも理由のひとつです。


早期発見のために

早期発見の決め手は血液検査です。前立腺特異抗原(PSA)という腫瘍マーカーのおかげです。泌尿器科外来の他、内科の開業医やドック検診、集団検診でのPSA検査により癌を発見しているのです。前立腺癌の検診は採血だけでよいため簡便であり、集団検診による癌の発見率は1%前後で、他の癌と比べると10倍という能率のよさです。自覚症状のない人も受ける機会があるわけですから、ドック検診や集団検診をきっかけにして癌が見つかった方は、外来患者さんより早期癌が多いのです。早期癌は治癒が可能です。ただし前立腺癌の場合は転移癌であっても治療法があります。適切な治療により、症状の発現を抑えたり、症状を著明に軽減することができるのです。結果を恐れる必要はありません。検診を受けましょう。


PSAとは何でしょう

この腫瘍マーカーは他の臓器の癌の診断には役立ちません。前立腺だけです。ただし癌だけが異常値を示す訳ではなく前立腺肥大症、膀胱炎、前立腺炎でも高値を示すことがあり、年齢とともに上昇する傾向があります。そこで前立腺肥大症と区別する必要があります。

一般に正常値は4ng/mlとされ、10ng/mlまでの間をグレイゾーン(灰色の値)といいます。この間ならおおむね20-30%の方が前立腺癌であるとされ、しかも発見されたとしても早期癌です。PSAの数値が高いほど癌の可能性が高く、PSAが30を超えると90%の方は癌の診断が得られています


泌尿器科を受診したら

泌尿器科医はこのPSA異常値の方のなかから癌患者さんを探しだすことが仕事です。

  1. 直腸指診や超音波検査の結果
  2. PSAの高さ、PSAに関連したさまざまな判断基準、年齢による基準を考えにいれて次の検査に進みます。ですから、癌の可能性が低いため、半年後にもう1度PSAを検査しましょう,という場合もあります。前立腺癌の発育速度は遅く、半年後に再検して見つかってもまだ早期癌ですから、ご心配なく。

診断は前立腺生検で

前立腺癌はCT,MRIなどのレントゲン検査で早期診断することが困難ですので、生検(組織診)が必要です。超音波検査の道具をガイドにして直腸方向から針(組織採取のための生検針)を用いて組織を採取し、病理診断を行います。当院では局所麻酔にて生検を行い1泊2日の入院が必要です。


治療法

前立腺癌には男性ホルモン支配、高齢者が多い、発育が遅いという3つの特徴があります。前立腺は男性ホルモンによって機能している臓器です。そこから発生した癌も多かれ少なかれ男性ホルモンに支配されているため、男性ホルモンを体内から排除するだけで治療が可能です。このホルモン療法という有効な武器があるため、癌の進行程度、年齢により、他の部位の癌より幅広い治療法の選択ができます。高齢者に偶然発見された早期癌は急いで治療せず経過をみることさえ可能な場合があります。


  1. 前立腺内限局癌(病期A,B)—早期癌です。
    70才以下の方は前立腺摘除手術がお勧めで完治できます。放射線治療が次善の策で、こちらも完治できる治療です。放射線治療には当院では2つの方法があります。一つは前立腺部に体外から放射線を35日間(70Gy)照射する方法と、小線源治療といい前立腺内に放射線物質を埋め込む方法です。71才以上の方には放射線治療をお勧めしています。手術も放射線治療もいやという方や御高齢者はホルモン療法で病気を抑えることもあります。能動的監視的待機療法は無治療経過観察療法と言って、経過を見ながら治療方針を決める方もいらっしゃいます。この治療の良い適応になる方は、PSA:20ng/ml以下、F/T比:0.15以上、高分化型腺癌、Gleason grade1,2,3、針生検(10本の場合)で癌が2本以下、症状がなく、1本の標本中、癌の占める割合が50%以下の方で、上記の条件をすべて満たす人が最も良い適応です。PSAの値を中心に充分な注意を払いながら、1-4ヶ月毎に診察します。病状の進行を認める時は、すみかやかに治療を開始します。
  2. 局所進展癌(病期C)—前立腺から少しはみだした癌です。
    ホルモン療法+放射線療法や前立腺摘除手術+ホルモン療法がお勧めです。ホルモン療法だけでも癌を抑えておくことはできますが、時期をみて放射線治療に移るのが病気のぶり返し(再燃)を防ぐ良い方法です。
  3. 転移のある癌(病期D)—骨、リンパ節への転移が主なものです。
    進行癌だからといってご心配にはおよびません。ホルモン療法というこの癌独特のよく効く方法があり、しかも一般の抗癌剤と違って強い副作用はありません。ホルモン療法は.男性ホルモンのレベルを下げることです。男性ホルモンは精巣と副腎から分泌され、精巣から出る男性ホルモンを抑える方法には両側の精巣を摘除するかLH-RHアナログという皮下注射を3ヶ月に1回投与します(両側の精巣を摘出する方もいます)。また副腎から出る男性ホルモンを抑える方法として内服薬を服用していただきます。他にも癌の進行程度によって様々なホルモン剤を用いて治療します。ホルモンの効果が悪くなった時には抗癌剤の投与も考えます。

前立腺癌の原因と予防

前立腺癌の原因は何でしょう?

はじめに地域、人種により前立腺癌の数が異なると述べました。事実、日本では現在は少数派でも、ハワイの日系米人は本邦より白人米人寄りであるといわれています。このように食事を含む生活環境のうちの何かが前立腺癌になりやすい危険因子として働き、遺伝的な素質も関与していることが伺われます。もうひとつ、前立腺癌は高齢になるほど発病しやすいことが知られており、今後も歯止めのかからないような高齢化社会で前立腺癌の増加は加速すると考えられています。


予防法はあるでしょうか

食品のなかで摂り過ぎはよくないかもしれないと考えられているものは動物性脂肪、乳製品です。肥満も関係があるかもしれません。過度の飲酒、喫煙も危険因子の候補にあがっています。

予防に役立つかもしれない食品として、豆類に含まれるイソフラボノイドがエストロゲン(女性ホルモン)様の構造を持つことから、前立腺癌を抑制する可能性があると推定されています。また野菜、果物が前立腺癌に限らず、一般的に癌予防効果があるとされることは、種々のテレビの健康番組などでもおなじみです。緑茶も期待されています。地域差から推定して、日照時間、ビタミンDの関与もありそうです。


というわけで確たる証拠はありませんが、過食、過飲、喫煙をさけ、動物性脂肪を減らし、豆腐、納豆などの豆製品を多く食べ、緑黄野菜の摂取を忘れず、戸外での適度な運動を楽しむ、これらが、他の生活習慣病と同様に予防策と考えるのが妥当でしょう。


 最後にもう一度、早期発見が大切です