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その他の疾患
てんかん
てんかんとは、大脳皮質にある神経細胞の異常興奮による痙攣などの発作症状を反復するものをいいます。痙攣というと足のふくらはぎがつったこむら返りを想像する方がいますが、それは筋肉の異常収縮で脳の病気ではありません。また、痙攣では手足を硬直させてガタガタふるわせる状態で、熱中症などの脱水でも認められる一時的なものもあります。一方、てんかんは繰り返し複数回発作として起こることや一瞬ボーっとなっているような発作もあり、脳波の乱れの部位により手足の硬直や震えがくるような発作や意識障害が起こります。てんかん後の片麻痺は運動神経細胞の近傍で起きた脳波異常のあとに見られるもので、トッド麻痺と呼ばれています。早く発作を抑えることで、麻痺は回復されます。
てんかんは発作が部分的なのか、全身的なのかで分けられますし、脳腫瘍や頭部外傷、脳卒中などに見られる症候性のものと原因不明な特発性に分けられます。
当院はがんセンターであり、てんかんの症例の大半は転移性脳腫瘍に伴う症候性てんかんであり、右の前頭葉に転移性脳腫瘍があると左手足の部分てんかんや脳波の乱れが拡がって二次性全般化をきたす場合もあります。また、抗がん剤治療を受けている方で低ナトリウム血症などにより急性症候性発作と呼ばれる痙攣発作をきたすこともあります。
痙攣発作が起きた時には、通常は2、3分で治りますが、15分以上続く重積発作ということもあり、その場合にはすぐ鎮静剤投与や抗痙攣薬を注射することで治ります。画像診断で脳腫瘍や脳出血が診断されれば、てんかんとして診断され、繰り返し起こさないように抗てんかん薬という薬剤を服用することになります。
抗てんかん薬では従来使われていた薬剤は様々な薬に相互作用という干渉を受けてしまうこともあり、抗がん剤などの濃度に影響が出ると、癌治療にも影響を及ぼしますので、新規抗てんかん薬と呼ばれる抗てんかん薬を当院では選択しています。
レベチラセタム(イーケプラ)、ラコサミド(ビムパット)、ペランパネル(フィコンパ)といった薬剤を用いててんかん治療を行なっています。
脳腫瘍に伴うてんかんなどでは、発作がコントロールできていないと、2年間は運転できないという制約を受けることがあり、その管理は主治医とともに十分ご相談ください。
図18:右前頭運動領近傍腫瘍の脳波所見。脳波検査中に左上下肢の部分てんかんを生じたときの脳波異常。
頭痛、特に片頭痛
頭痛は風邪を引いても起こりますし、お酒を飲んでも起こります。当科では片頭痛の患者も診察しております。もちろん脳腫瘍や脳出血も頭痛をきたしますので、そうした頭痛は二次性頭痛と呼ばれていて、頭痛の原因が脳の病変からきている場合の頭痛をさします。脳神経外科の一般診療では、歩いて来院された方でくも膜下出血をきたしている人を見つけ出すことが大事な仕事の一つで、画像診断もそのため多く行われています。こうした脳血管異常や脳腫瘍などの器質的疾患によらない頭痛は一次性頭痛と呼ばれ、片頭痛、筋緊張性頭痛、群発性頭痛などの頭痛に分類されています。
片頭痛は女性に多いのですが、男の人でも片頭痛は多く、頭痛のために仕事に支障を来していることが少なくありません。元々遺伝的素因があり、天候や寝不足、ストレスなどの誘因があると、あくびや倦怠感などの予兆をきたし、閃輝暗転などの前兆のある片頭痛の人はキラキラとかギザギザした模様が視界に現れ、それが終わると頭痛発作が始まり、鎮痛剤を飲んでも効果がなくて寝込んでしまうといったことになります。人の声や光が当たるのが嫌で布団をかぶって寝込み、子供達が遊んでいると「あっちに行って遊んでなさい」と怒鳴って頭痛がすぎるのを待つお母さんも多いかと思います。ホルモンの影響を受けて、月経時に関連することもありますし、強い頭痛で吐き気を伴うこともあるかと思います。日常生活の支障度は大きく、鎮痛剤を大量に服用する方もいらっしゃいます。鎮痛剤を多く服用しても、片頭痛による血管周囲の炎症が治まらないばかりでなく、月に15回以上鎮痛剤を服用される方は薬物乱用頭痛とも呼ばれる病態となって、鎮痛剤の効果が薄れることに繋がります。
片頭痛では、光や皮膚感覚から視床下部へ刺激が伝わるとともに頭蓋内硬膜血管周囲に炎症が起こってサブスタンスPとかカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)といった物質が放出されて三叉神経に刺激を与え、中枢神経へその信号が送られ、更に様々な自律神経系にも影響を与えて強い頭痛をきたしていると考えられています。
現在の片頭痛治療では、頭痛ダイアリーをつけてもらい、日常生活習慣の是正や食事(チーズ、チョコレート、ワイン、グルタミン酸など)の誘発因子を見つけ、発作が始まるとすぐにトリプタン製剤を急性期薬として服用することを奨めます。トリプタンにはレルパックス、マクサルト、ゾーミッグ、イミグラン、アマージの5種類があり、服用の方法や副作用の違い、作用時間の差などを考慮して試してもらいます。頭痛の起こりはじめに服用してもらいますが、遅れてしまうと鎮痛剤を救援用に服用してもらうこともあります。月に1、2回の発作の人で、薬でコントロールされればうまく片頭痛と付合えていると判断します。
トリプタンも多くなって反復性片頭痛とか慢性片頭痛と呼ばれるくらいの片頭痛発作の人では、予防薬が必要となります。予防薬にはミグシス、デパケン、トリプタノール、インデラルなどの降圧剤、抗てんかん薬、抗うつ剤、心臓作動薬を用いる場合もあります。
最近では片頭痛時にCGRPが、硬膜の血管周囲に多く放出されているという機序から、抗CGRP抗体薬(エムガルティ、アジョビ)や抗CGRP受容体抗体薬(アイモビーク)などによる予防的注射治療も行われており、月に10回から15回程の反復性•慢性片頭痛を6-8回程度に減ずることができてきています。
片頭痛は病気ではないと思われがちですが、仕事への支障度や医療従事者の罹患率の多さからもしっかり治療していくべき疾患でしょう。
図19:片頭痛症例の頭痛ダイアリー。この4週間のうち3回の発作があり、トリプタン製剤により頭痛のコントロールを行っているのがわかる。
慢性硬膜下血腫
頭部外傷の急性期の頭蓋内血腫と異なり、軽い外傷(戸口に頭部を打撲したとか、酔って転んで頭を打ったなどの意識障害を伴わないような外傷)により3週間程経ってから起こる被膜を伴う血腫で、徐々に増大していくものです。アルコール多飲者や高齢者に多く認めます。ときに出血傾向のある白血病の方や、外傷の既往のない方にも起こります。
症状は、頭痛を訴える場合も有りますが、高齢者では認知機能低下や歩行障害、失禁なども多く認めます。片麻痺を起こす場合も有ります。
頭部CTやMRIにより脳表に血腫を認めることで診断されます。血腫は様々な状況や経過で多様な画像をきたします。片側性のことが多いのですが、両側性の場合も認められます。
繰り返したり、再燃したりする場合も有りますが、多くは治療により軽快します。そのため、認知症が改善して「なおる認知症」と称されることもあります。治療法は、局所麻酔で4cm程の皮膚の切開から1.5cm径の穿頭と呼ばれる穴をドリルで頭蓋骨に開け、ドレナージと呼ばれるシリコンのチューブを入れて血腫が流出すれば脳の圧が抜けて治ります。
その際に、出血傾向の有る場合(血液癌の方や癌治療を受けている方などで血小板が少なく血が固まりにくい場合など)や、抗凝固薬•抗血小板薬など抗血栓薬を服用されている方ではすぐには手術が出来ませんので、必ずご病気の既往や現在服用中の薬や薬手帳などを持参して下さい。
図20:慢性硬膜下血腫の経時的頭部CT。
- 入院時。左大脳が硬膜下血腫(赤→)により圧排され、脳の正中が偏位している。
- 翌日の頭部CT再検では、血腫が2層(赤→)になって更に脳を押していた。右片麻痺と意識障害をきたしたため、緊急で手術を行うこととなった。
- 手術後では、血腫はなくなり(赤→)、ドレナージ用のチューブの先端(黄→)がみえている。脳の偏位が改善している。