頭頸部のがん: 下咽頭がん

1. 部位と機能

咽頭は3つの部位(上、中、下)に分けられ、下咽頭はのどの一番下で食道との移行部にある臓器です。喉頭(のどぼとけ、声帯を含む枠組み)の後ろにあるので下咽頭がんの治療に際しては発声機能が問題になることが少なくありません。


下咽頭がん


図1 国立がん研究センターがん情報サービスより引用


2. 発症要因

発症要因は喫煙が主であり、また飲酒もあげられます。喫煙と飲酒が合わさることで発症リスクは高くなるとされています。


3. 症状

症状がでにくく、頸部リンパ節転移を起こしやすいため、進行がんで発見されることが多い疾患です。のどの違和感、嚥下時の異物感、食べ物がつかえる感じ、継続するのどの痛みなどがあったら早めに病院を受診してください。喉頭の近くにあることから、酷くなると嗄声(声がれ)、呼吸困難を生じます。頸部リンパ節腫脹だけという場合もあります。


4. 検査

診断は組織生検後に病理検査(病理医による組織の顕微鏡検査)を行います。下咽頭がんのほとんどは扁平上皮がんという種類です。さらにCT、MRI、PET/CTなどで進展範囲、頸部リンパ節転移、遠隔転移の有無を調べ、病期分類を決定し進行度を判定します。また、食道がん、胃がんなどを併発することがあるため、上部消化管内視鏡検査をお勧めしています。


5.治療

下咽頭がんの治療は放射線療法、化学療法、手術を組み合わせ行います。ただし、受診時の病気の進行度、全身状態(既往症、心臓、肺、腎臓などの他の病気の具合)、年齢によって慎重に決定します。早期がんで限局している場合には手術を推奨し、進行癌では放射線化学療法と手術のどちらかを選択する行うことが多いです。

手術の種類は、A下咽頭部分切除(経口的あるいは頸部外切開)、B下咽頭・喉頭・頸部食道切除です。Aは主に早期癌を対象とし、経口的の場合は、下咽頭の視野を器具で確保し、頭頸部外科医単独あるいは消化器内科医と合同で内視鏡併用下に腫瘍を切除します。頸部外切開の場合は、頸部皮膚を切開し腫瘍を切除します。喉頭の温存が可能なため、音声機能の温存が可能です。Bは進行下咽頭がんで標準的な手術で、喉頭全摘、下咽頭、頸部食道の一部を切除します。喉頭(声帯)を摘出しますので気管孔という呼吸の穴をのど仏の下に作ります。手術後の体へのダメージが大きいので病気の進行度、全身状態を十分考慮して慎重に適応を決めます。手術後の組織欠損部は、ご自身の空腸、前腕皮弁を移植して再建します。手術時間は、原発切除、リンパのお掃除の頸部郭清術、咽頭の再建(移植)がセットで行われますので10時間ほどの手術になります。術後は喉頭喪失するため、発声は不可能となります。

抗がん剤併用放射線治療(化学放射線治療)は、放射線による咽頭粘膜炎、皮膚炎、唾液分泌障害、味覚障害、嚥下障害などが生じやすく、さらに併用する化学療法による嘔気、嘔吐、食欲不振、下痢、血液検査上の異常などが生じやすくなります。治療期間は7週程度かかります。治療完遂のための、支持療法として疼痛管理、栄養管理(予防的内視鏡的胃瘻造設、末梢挿入型中心静脈カテーテル留置)、スキンケア、口腔ケア、嚥下リハビリ、精神面のケアをチーム医療として看護師、薬剤師、言語聴覚士、栄養士、口腔外科医、理学療法士と協力して実施し、機能維持と回復を行います。


6. リハビリ

喉頭全摘後は声帯の喪失により発声することが不可能になります。代用音声として、 食道発声というリハビリや電気喉頭という器具でコミュニケーションをとるのが伝統的で、他に気管食道シャント発声法があり、患者さんに適した音声機能の回復に努めます。気管食道シャント発声法の原理は、気管・食道シャント(気管と食道の間に小さな孔をあけること)を経由して肺の空気を咽頭に送りこみ粘膜を震わせることで、代用発声が可能です。代用発声の質は食道発声や電気喉頭よりも肉声に近いもので比較的容易に音声機能を再獲得することが可能です。当院で対応が可能です。

また、再建術、頸部郭清術後の方は、嚥下障害や首から肩にかけての知覚および運動障害が問題になります。なるべく治療後の機能低下が少なくなるように、嚥下リハビリ(飲み込みの訓練)、肩の運動リハビリなどを行います。術後も、化学放射線治療と同様に、機能維持や回復のため多職種によるチーム医療を行います。