泌尿器がん: 陰茎がん

陰茎がんとは

陰茎がんとは、陰茎に発生する比較的まれながんで、男性のがんの1%以下を占めるにすぎません。人口10万人に0.4~0.5人の割合です。50~60歳代に多くみられます。

当院では1976~2004年の29年間で40例の陰茎癌の患者さんを治療しています そのほとんどは亀頭に発生し、包茎の人に多く発生する傾向があります。80%以上の方が包茎の状態でした。60~70歳代に多く認められました。

最近では、パピローマウイルスとの関連が注目されています。


症状

亀頭部を中心に小さなしこりを認めるようになります。初期では痛みを伴わないのが普通です。がんはまず陰茎の皮膚から発生しますが、進行すると海綿体や尿道にも浸潤し、排尿が困難になることがあります。がんが大きくなると潰瘍を形成したり、がんが崩れて出血することがあります。また、陰茎がんはそけい部と呼ばれる大腿のつけ根の部分のリンパ節に転移しやすいので、進行すると鼠径部のリンパ節をかたく触れるようになります。

癌の発生場所のため、医師の診察を受けるのが遅れ、がんの早期発見の機会を逃して手遅れとなることが多いので、自覚症状があったらすぐに診察を受けることが大切です。


診断

肉眼的に見て診断がつく場合がほとんどです。しかし、確定診断のためには、局部麻酔をして病変部の一部を切除して顕微鏡で検査します。

がんの診断後は、胸部X線撮影、腹部のCTなどで他臓器に転移がないかを確かめる必要があります。


病期(ステージ分類)

I期:がんが亀頭部のみ、あるいは陰茎の皮膚のみに限局している。

II期:がんが亀頭部を越えて拡がっているが、転移がない。

III期:鼠径部のリンパ節に転移がある。

IV期:鼠径部を越えて骨盤内のリンパ節に転移がある、あるいは他の臓器に転移がある。


当院での治療方針

陰茎がんの治療の主体は外科療法による部分切除または全摘出術です。以前は早期の方には抗癌剤治療+放射線療法も施行されていましたが、現在では外科療法を主なる治療としています。


I期、II期

基本的には手術による切除です。腫瘍の広がりより切除する範囲が異なります。まれですが腫瘍だけを切除可能な場合もあります。病変部から最低2cmは離して切断するため、多くの場合は当然、陰茎は短くなります。さらに浸潤が進んでいる場合には、陰茎を根本から切断し、尿の出口を会陰部にもってくることもあります。また陰嚢全体を切除することもまれにあります。

CTなどでリンパ節転移を認めない時には、リンパ節郭清術は行いません。しかし定期的な厳重な経過観察が必要です。リンパ節転移を認めるようになってから、リンパ節郭清術を施行するので充分に治癒の状態が得られます。


(放射線治療について)

I期(T1,N0)病変は低エネルギーX線(表在治療用のKVX線)、電子線による局所への外照射や小線源治療(モールド照射、組織内照射)が適用となります。組織内照射の適用となる対象は、最大径4cm以下の病変であります。II期については当院では原則的に適応にはしていません。

また表在性の病変であればレーザーを用いた治療が可能なこともあります。


III期

手術+そけい部リンパ節郭清術が必要になります。リンパ節転移の有無は触診・CTなどにて診断されますが、反応性のリンパ節腫大を認めることがあり2~4週間の抗生剤の投与を行い、反応性の腫大かリンパ節転移かの鑑別を行います。

術中そけい部のリンパ節転移が明白な時には、骨盤内のリンパ節郭清術を行うことを考慮することもあります。

また手術の前後に化学療法を併用し、手術成績の向上をはかる試みもされています。

リンパ節郭清術の適応にならない方では放射線治療も考慮されます。


IV期

いわゆる集学的治療(多くの治療法の組み合わせ)が必要になります。原発巣である陰茎の癌の切除、リンパ節郭清術、シスプラチン、メソトレキセート、ブレオマイシン、などの併用による抗がん剤治療、放射線治療を組み合わせた治療が必要になります。


治療の副作用について

1)外科療法

手術自体は危険なものではありません。陰茎切除は30分、リンパ節郭清は1~2時間程度で、腰椎麻酔または全身麻酔で行われます。

手術後は陰茎が小さくなり排尿が難しくなることがあります。尿の出口が会陰部の場合には坐位にての排尿になります。

鼠径部のリンパ節郭清の後では、足がむくみやすくなる傾向があります。

また全ての手術に共通ですが、手術中・直後の全身に起きる大きな合併症として、心筋梗塞・肺梗塞・脳梗塞・脳出血が0.05%程度発生するといわれています。致命的な合併症で一度起きてしまうと危険な状況に陥る可能性もあります。


2)化学療法

使用する抗がん剤の種類によって異なり、個人差もありますが、治療中の主な副作用は骨髄毒性(貧血、白血球減少による感染、血小板低下による出血傾向)、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、手足のしびれ、肝機能障害、腎障害、脱毛、疲労感など、その他予期せぬ副作用もみられることもあります。原則として、これらは抗がん剤投与後2~3週間で改善するため対症療法を行います。強い白血球減少に対しては感染を防ぐために白血球増殖因子(血液を産生する骨髄に作用し、白血球を短期間で多くつくらせる薬)を投与します。


3)放射線療法

放射線の有害事象には放射線治療中に生じてくるもの(早期有害事象)と治療終了後数ヶ月以上経過してから生じてくるもの(晩期有害事象)とがあります。

早期有害事象は全身的なものと局所的なものがあります。全身的なものとしては、倦怠感、食欲不振、吐気、血液の変化(白血球、血小板減少など)などがあげられます。

局所的な早期有害事象は半数以上の方に生じますが、その症状の出方や強さはかなり個人差があります。局所の早期有害事象は放射線による粘膜炎の症状として出てきます。症状がでてくるのは治療開始後2~3週目くらいが一般的です。

症状が強い時には、薬剤を使って症状を緩和させます。それでも症状が緩和せず、強くなる場合には、放射線治療を一時休むことになりますが放射線治療を休止するまでに強い症状の出る方は1~2%くらいです。この早期有害事象は一般的には、治療が終了してから2~4週くらいで徐々に治まってきます。

晩期有害事象は放射線治療終了後数ヶ月以降に生じる副作用です。放射線をかけた場所に生じてきます。毛細血管が放射線をかけたために詰まって、血流が悪くなるのが原因の大部分をしめていると考えられています。

放射線治療を受けることで発癌性について心配される方がいらっしゃると思います。放射線治療で誘発される癌の発生時期は、固形腫瘍では10年以上後から出てくるとされています。


治療成績および生存率

もともとまれな疾患であり、当院のまとまった治療成績を出すことは残念ながらできません。

がんが限局性である場合(I、II期)の5年生存率は90%、III期ではリンパ節転移陽性の方の5年生存率は30~50%といわれています。

当院の治療成績ではI、II期の5年生存率は90%、III期では、そけいリンパ節転移陽性の数が1個の方では(pN1)、7例の症例がこの範疇に入りますが、5例では再発なく10年以上の生存を認めています。死亡した2例の方は他の病気が原因で陰茎癌の再発は認めていませんでした。リンパ節転移を2個以上認める8例では5例では陰茎癌が原因で2年以内に死亡していますが、3例では再発なく5年以上経過しています。

IV期では、予後は大変厳しいといわざるを得ません。ただし、これらの数値はたくさんの患者さんの平均的な統計学的な数値であり、あくまでその傾向を示すもので、個々の患者さんにあてはまるものではありません。